人事データをAIで扱う際のガバナンス設計
評価、給与、健康、面談記録。人事データは企業が持つ最も機微な情報である。AIで扱う前に決めておくべき方針、体制、記録、説明の仕組みを、法規制とフレームワークをもとに整理する。
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- 執筆
- People AI Lab 編集部
この記事の要点
- 01人事データのAI利用は「技術の問題」ではなく「意思決定の権限と責任の問題」として設計する。誰が、どのデータを、何の目的で、どこまでAIに委ねるかを文書化する。
- 02日本の個人情報保護法における利用目的の特定・要配慮個人情報の扱い、EU AI Act における雇用領域の高リスク分類、NIST AI RMF の4機能を参照点にすると、抜け漏れの少ない設計ができる。
- 03従業員への説明と異議申し立ての仕組みは、法的義務の有無にかかわらず、制度の受容に直結する。
人事データは、企業が保有する情報のなかで最も機微なものの一つです。評価、給与、健康状態、面談記録、退職理由。これらをAIで分析・生成に使うことは大きな価値を生む一方で、扱いを誤れば従業員の信頼と法的な信用を同時に失います。本記事では、人事データをAIで扱う際のガバナンスを、方針・体制・記録・説明の4層で整理します。
本記事は法的助言ではありません。法令の適用については、必ず専門家にご確認ください。
なぜ「人事データ×AI」は別枠で考えるべきか
一般的な業務データと比べて、人事データには3つの特徴があります。
- 本人に対する非対称性:データの主体である従業員は、会社に対して弱い立場にあり、利用に同意しないことが事実上難しい。
- 判断への直結性:評価・配置・処遇という、本人の生活に直結する判断に使われる。
- 偏りの蓄積:過去の人事判断そのものが偏りを含んでいる可能性があり、AIがそれを学習すると再生産される。
そのため、一般的なデータガバナンスに加えて、「AIの出力をどこまで人事判断に使うか」という意思決定の設計が必要になります。
参照すべき法規制とフレームワーク
日本:個人情報保護法
個人情報保護法は、個人情報の利用目的をできる限り特定し、その範囲内で取り扱うことを求めています。また、人種、信条、病歴などの「要配慮個人情報」については、原則として本人の同意なく取得してはならないとされています。人事データをAIで分析する場合、「その分析は、取得時に特定した利用目的の範囲内か」を確認することが出発点です。
個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスの利用について注意喚起を公表し、本人の同意なく要配慮個人情報を入力することや、利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を入力することに注意を求めています。面談記録や健康情報を外部の生成AIサービスに入力する際は、この点を運用ルールに反映する必要があります。
EU:AI Act と GDPR
EUのAI規則(Regulation (EU) 2024/1689)は、雇用・労働者管理の領域で使われるAIシステム、具体的には採用・選抜、昇進・解雇の判断、業務配分、監視・評価に用いるものを「高リスク」に分類しています。高リスクAIシステムには、リスク管理、データガバナンス、記録、透明性、人間による監視などの要件が課されます。欧州に拠点や従業員を持つ日本企業は、対象になりうることを前提に確認が必要です。
また、GDPR第22条は、法的効果や同様の重大な影響を及ぼす決定を、専ら自動処理のみに基づいて行われない権利を定めています。人事判断を完全に自動化しないという設計は、この観点からも重要です。
フレームワーク:NIST AI RMF と ISO/IEC 42001
米国NISTの AI Risk Management Framework(AI RMF 1.0)は、AIリスク管理を Govern、Map、Measure、Manage の4つの機能で整理しています。ISO/IEC 42001:2023 は、AIマネジメントシステムの要求事項を定めた国際規格で、組織としてAIの利用を継続的に管理する枠組みを提供します。どちらも、人事領域に限らず使える汎用的な枠組みですが、「体制」「記録」「測定」「改善」の要素を網羅する点で、人事データのガバナンス設計の骨格として有用です。
ガバナンスの4層モデル
編集部は、人事データのAI利用に関するガバナンスを、次の4層で設計することを推奨しています。
各層で決めることと成果物を表にまとめます。
| 層 | 決めること | 成果物の例 |
|---|---|---|
| 1. 方針(Policy) | AI利用の目的、禁止事項、判断への利用範囲 | 人事AI利用方針、データ分類基準 |
| 2. 体制(Governance) | 責任者、承認プロセス、監査の主体 | 責任分担表(RACI)、承認フロー |
| 3. 記録(Records) | 入力データ、モデル、出力、判断の記録 | 利用台帳、影響評価、変更履歴 |
| 4. 説明(Transparency) | 従業員への説明、問い合わせ・異議申し立ての窓口 | 従業員向け説明文、FAQ、申立手順 |
第1層:方針
最初に決めるべきは「AIの出力を人事判断にどこまで使うか」です。編集部は次の3段階の区分を推奨します。
- 参考情報:AIの出力は担当者が参照する情報の一つにすぎず、判断根拠として記録しない(例:面談記録の要約)
- 判断の補助:AIの出力を判断根拠の一部として記録するが、最終判断は人が行い、理由を説明できる(例:評価コメントのばらつき分析)
- 利用禁止:AIの出力を判断に使わない(例:健康情報に基づく配置判断、退職予測に基づく処遇の差別化)
あわせて、データの分類(公開・社内・機微)と、分類ごとに利用できるAIサービスの条件(学習利用の有無、保存場所、契約形態)を定めます。
第2層:体制
人事データのAI利用は、人事部門だけで完結しません。少なくとも、人事、情報システム、法務・コンプライアンス、そして事業側の責任者が関与する体制が必要です。ポイントは、「新しいAI利用を始めるときの承認者」と「問題が起きたときの責任者」を明確にすることです。
第3層:記録
記録は、監査のためだけでなく、後から検証するために必要です。最低限、次の項目を台帳として残すことを推奨します。
- 利用目的と対象業務
- 入力するデータの種類と取得時の利用目的
- 利用するAIサービス・モデルと契約条件
- 出力の利用区分(参考情報/判断の補助/禁止)
- 影響評価の結果と、想定されるリスクへの対処
- 導入日、見直し日、責任者
第4層:説明
従業員に対して、どの業務でAIを使い、どのデータを入力し、判断にどう使うかを説明することは、法的義務の有無にかかわらず、制度の受容を左右します。加えて、AIの関与した判断に対して従業員が問い合わせや異議申し立てをできる窓口を用意することが重要です。
よくある落とし穴
編集部が実務家から聞く範囲で、繰り返し見られる問題を挙げます。
- 「分析目的」の拡大解釈:エンゲージメントサーベイのために取得した自由記述を、退職予測や個人評価に転用する。取得時の利用目的を超えている可能性がある。
- 匿名化の過信:少人数の部署では、属性の組み合わせで個人が特定できる。集計単位の下限を決めておく。
- ベンダー任せ:AI機能を持つHRツールを導入する際、モデルの学習データや出力の根拠を確認しないまま判断に使う。ツール選定の段階で確認する(HR×AIツールを選ぶ際の評価基準を参照)。
- 記録の欠如:試験的な利用が正式運用に移行しても、台帳が更新されない。
おわりに
人事データのAI利用におけるガバナンスは、AIの活用を止めるためのものではなく、活用を続けるための土台です。方針・体制・記録・説明の4層を最初に設計しておけば、新しいツールや用途が増えても、同じ枠組みで判断できます。まずは、現在すでにAIを使っている業務を棚卸しし、利用区分と台帳を作るところから始めることをおすすめします。
出典・参考資料
- [1]個人情報の保護に関する法律(e-Gov法令検索) 参照 2026-08-22
- [2]生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(個人情報保護委員会) 参照 2026-08-22
- [3]Regulation (EU) 2024/1689(EU AI Act)(Official Journal of the European Union) 参照 2026-08-22
- [4]Regulation (EU) 2016/679(GDPR)Article 22(Official Journal of the European Union) 参照 2026-08-22
- [5]Artificial Intelligence Risk Management Framework (AI RMF 1.0)(NIST) 参照 2026-08-22
- [6]ISO/IEC 42001:2023 Information technology — Artificial intelligence — Management system(ISO) 参照 2026-08-22
この記事について
本記事は、下書き・構成整理・文章校正の一部に生成AIを利用し、編集部が出典を確認したうえで内容を検証・編集しています。 最終確認:People AI Lab 編集部。詳しくはAI利用方針と編集方針をご覧ください。誤りにお気づきの場合は情報訂正ポリシーに沿ってご連絡ください。